選定者私物の本

案内文04

「衣食住がもつ本来の魅力」演出家・舫井むすぶ

『アーバンサバイバル入門』服部文祥

タイトルのネーミングからしてまずはおもしろい。アーバン(都市)でサバイバル(生き残る)って。物であふれた大量生産、大量消費のこの時代に、どうして大都市でサバイバルする必要があるのかと疑問をもつ人もいるだろう。手にとり読み始めた私もそんな一人だ。筆者がこの生活を始めたきっかけは、写真家の星野道夫さんの作品だそうだ。おもしろいのは、小学6年生の教科書に載る「自然写真家」としての側面ではなく、北米先住民との間に写し出された「人間とその食糧」に魅力を感じたというところだ。そして、都会でも猟師のように「獲って殺して食べる」を実践し、具体的に紹介していく。


内容は、衣食住の多岐に渡って実践しているが、ページの大半を「食」に費やしている。その中でも、ニワトリが丁寧だ。ヒナの育て方から丸焼きまで、わかりやすく書かれているのだ。小学校のキャンプクラブに始まり、大人になるまで指導的な立場でキャンプにかかわってきた私としては、読みながら自分の小学校時代の記憶が蘇った。


キャンプクラブの顧問の先生が「これからニワトリを捌くから、よく見ておくように。命をいただくとは、こういうことだ」と、暴れる雌鶏の首の頸動脈に、よく切れる鎌をすっと滑らせた。先生が雌鶏を放すと、10歩程度血を流して歩き、パタリと倒れた。田舎育ちで野山を駆け回っていた私でも、この光景は衝撃の一言だった。目を背ける子がほとんどだったが、その場から逃げるわけにもいかず、粛々とその後も調理を続けた。熱湯につけた雌鶏の毛をむしり、内臓を取り出し、見よう見まねで捌いた。班に1羽割り当てられると、かまどで丸焼きにした。丸焼きとなった雌鶏を、手でちぎり、班員で分けて食べたことは覚えているのだが、不思議なことに味は覚えていない。「どうしても食べられない…」と女子が半泣きでつぶやいた声はよく覚えている。こうして、10歳だった私の夏は、忘れられない記憶となった。今となっては、こんな貴重な経験をさせてくれた当時の先生に感謝だ。そして、ずっと眠っていた記憶を呼び起こしてくれたこの本に感動だ。


昨今、便利さと自然を融合したオートキャンプが流行し、たくさんの雑誌や本が出版されている。それらの本とは一線を画し、何かしらの「生きる根源」が感じられるのは確かだ。ページをめくりながら追体験するもよし。オートキャンプで真似するもよし。私のように子ども時代の自分に出会うもよしな一冊だ。

あらすじ/『アーバンサバイバル入門』服部文祥

著者・服部文祥は、長期の山行において装備を極力持たず、食料を現地調達する「サバイバル登山」を行う登山家で、その様子を描いた山岳ノンフィクション『サバイバル登山家』が過去に出版されている。その著者が、人が生きていく上での基本となる「衣食住」を可能な限り自分の力で作り出す「アーバンサバイバル」の方法とその実践を700点の写真と50点のイラストとともに紹介する1冊。

案内者プロフィール

舫井むすぶ。1974年大阪府生まれ。劇団カムカムミニキーナの演出部所属。お笑い芸人の単独ライブ等の脚本、演出を担当。一方で小学校の先生として、様々な学芸会の脚本を執筆するなど表現活動を得意とする。また、スペイン人が開発しフランスで流行した読書法を学ぶ「読書のアニマシオン研究会」の一員でもある。キャンプ、ギター、ヨット、ダイビング、歴史、海外へのフィールドワーク等の趣味をもち「おもしろアンテナ」を日常的に送受信中。

アーバンサバイバル入門

書籍情報

『アーバンサバイバル入門』(2017年5月発刊)
デコから発売中。