案内文03
「2010年代の自給自足思想」編集者/ライター・月岡 誠
『アーバンサバイバル入門』服部文祥
怖い表紙です。著者は鶏を愛でているのではなく、首をへし折った直後。ちゃんと目をつぶった鶏の横顔が見えるように抱え、愛情も感じられますが、食べちゃうわけです、これから。サバイバル=生き残るとはこういうことですよ結局、を最初にガツンと一撃。
衣食住をできるだけアウトソーシングせずに自分でまかなう、というのがアーバンサバイバルのコンセプトです。特に食の自力調達ぶりはかなりのもの。主食は無理なようですが、隣に雑木林がある横浜郊外の一軒家を買い、養鶏で卵と鶏肉、養蜂ではちみつを、と高栄養食材を確保。さらに野菜を植え、木の実や草を採取し、小動物(含む哺乳類)を採ったり、魚(含む亀・ザリガニ)をさばいたり。これらに関する作業が、写真と図で詳細かつ実用的に(≒エグく)紹介されているのがミソです。拾う・もらうも大切で、それは衣・住にも及び、「燃えないゴミの日は宝の山」という項目もあってしびれます。
ではなぜ、こんなことをするのか? 頭で理屈ばっかこねてもダメ、身体を使って実感しないとね、という「身体性の重視」は、1970年代の全共闘運動敗北後、連綿と続いている思潮です(武道なんかではもっと前から)。近年、マンガ『銀の匙』『ゴールデンカムイ』などの人気が高いのも、何でも買う生活してると、ヒトとしての機能・根幹がヤバくなるという危機感を抱く人が結構いるからかと思います。でも、なかなか実践できない。昔、友人と「反原発を貫くなら、電気を使わない生活しないと筋が通らない、50になったら自給自足をやろうぜ」とか話した記憶がありますが、それこそ理屈倒れで未実現。これに対し服部さんは、「生活を豊かに楽しくする」「自分の輪郭をはっきりさせる」というスタンスで臨みます。登山から実感したものだと思いますが、本文にも「楽しい」という言葉が頻出します。
昔のヒトは必要だから、1970年代には思想的意味合いからやっていたことを、自分の成長に向けて楽しくやる——そこいら辺が、2010年代なのかと思います。
あらすじ/『アーバンサバイバル入門』服部文祥
著者・服部文祥は、長期の山行において装備を極力持たず、食料を現地調達する「サバイバル登山」を行う登山家で、その様子を描いた山岳ノンフィクション『サバイバル登山家』が過去に出版されている。その著者が、人が生きていく上での基本となる「衣食住」を可能な限り自分の力で作り出す「アーバンサバイバル」の方法とその実践を700点の写真と50点のイラストとともに紹介する1冊。
案内者プロフィール
月岡誠。1961年東京生まれ。双子。仙台6年、埼玉22年。妻子アリ。専ら社史のライティング、たまに編集、ごくたまに企画。「愛は破れるが親切は勝つ」けど愛も欲しいやね。パス重視だけど、ちょっとは「拍手が欲しい」。「人は死ねばゴミになる」けど、なかなかそうは悟れん。嗚呼、凡庸也。
書籍情報
『アーバンサバイバル入門』(2017年5月発刊)
デコから発売中。