選定者私物の本

案内文01

「買うか狩るか」デザインする人 [字と図]・よしだすすむ

選定者

『アーバンサバイバル入門』服部文祥

僕が、高校生の時に、この本に触れていたとしたら、その後の人生は大いに変わったんじゃないかと思う。

書評をしてほしい…というお話をいただいた時「高校生の自分に、もし一冊あげられるなら」という視点で考えてみた。そうしてまず浮かんだ本が、これだ。


ちなみに僕は、首都圏で生まれ、首都圏で育った。それが、僕の『普通』になった。そして、普通に高校生になると、いきなり『進路』とかいうやつが出てくる。それは定食屋のメニューのように、これから食べたいものを一つ注文しなければならない。その中から、本当に食べたいものを選べるのだろうか。


それから、なんとなく普通に時が流れた。二十歳も超えて、バイトやら仕事でお金をもらえるようになると、なんだか一人前になったような気がしてくるのだけど、僕の『普通』は、そんなに成長していなかった。


それに気がついたのは、ある日、イヌイットの子供が、一人前になるために、お父さんと様々な漁へと一緒についていくドキュメンタリーを観た時のこと。テレビの中の子供は、記憶では、ひと桁代の歳だったが、それはもう、僕の何十倍もたくましい『男』だった。


結構大人になってから、僕の『普通』が顕微鏡でのぞいた世界であることを知ったのだった。その普通は、とても小さかった。


『普通』は、自分次第で、いかようにも変えられることを、高校生の自分に教えてあげたい。この本は、そのための一歩を踏み出す『ドア』のようなものである。


ネタばれしたくないので、本の中身は、なるべく語りたくないのですが、あえて一つだけ紹介するなら、この本の中には、一部モザイクをかけたくなるような内容が含まれている。
それでも、のぞいてみてほしい。


食べ物を自分で調達するための方法が載っているのである。
それは、きっと、あなたの『普通』に影響します。普段行くスーパーマーケットが、別のモノに見えてくるはず。そして、ぜひ、自分の『普通』と比べてみてほしい。

あらすじ/『アーバンサバイバル入門』服部文祥

著者・服部文祥は、長期の山行において装備を極力持たず、食料を現地調達する「サバイバル登山」を行う登山家で、その様子を描いた山岳ノンフィクション『サバイバル登山家』が過去に出版されている。その著者が、人が生きていく上での基本となる「衣食住」を可能な限り自分の力で作り出す「アーバンサバイバル」の方法とその実践を700点の写真と50点のイラストとともに紹介する1冊。

案内者プロフィール

よしだすすむ。東京都杉並区出身。多摩美術大学(タマニブVC)卒。在学中からデザイン会社(株)正方形に勤務し、その後独立。(株)ブックマーク 代表取締役を経て、『字と図』結成。字と図は、コピーライターの妻、吉田千枝子(字)とデザイナー/アートディレクターよしだすすむ(図)による夫婦ユニット。里帰り出産を機に2013年秋、青森県十和田市に移住。元蔵人。
〈編集部追記〉
よしださんは、ユニット「字と図」としてiFデザイン賞2017、ご個人としてグッドデザイン賞2010、日独交換カレンダー展銀賞など多数を受賞。「字と図」のウェブサイトはhttp://jitozu.com/

アーバンサバイバル入門

書籍情報

『アーバンサバイバル入門』(2017年5月発刊)
デコから発売中。