編集者活動日記

2019年
某日

「本を読んでいる大人がかっこよく見えないとね。」
 読書人(『週刊読書人』)代表取締役 黒木重昭さん

 神田神保町にある会社にて。ここでは『週刊読書人』の編集業務が行われている。具体的な本の話になると、すぐに「ちょっとそこで探してみましょう」とおっしゃる。本屋さんの数が減るなかで神保町に会社があるというのはこういうことなんだ、と思う。

 『週刊読書人』の「書評キャンパス」というコーナーは若い人が本を読まないと定例句のように言われるなかで「本を読む若い人」たちに大人たちが何かアプローチしなければいけないのではないか、という黒木さんのお考えから始まった。

 次に引用するのは、書評キャンパスのスタート時に黒木さんが書かれたメッセージ。


大学生の読書量が減っている、ということが声高に語られているがほんとうにそうなのだろうか。実際にはたくさん本を読む学生と、まったく読まない学生との格差が大きくなって、数字にはそれが反映されているということはないのだろうか。

それにしても将来の日本を背負う若い人たちが「本を読み、そのテーマについてじっくりと考え、それをきちんと伝える」力を蓄えないと、私たちの社会が次第に地力を失っていくことに繋がるのは間違いない。若い人が本を読まない裏側には、読むに値する本が少ないか、あるいはどの本を読むべきなのか、きちんとした提案がなされていないからなのかもしれない。

私たち「週刊読書人」は書評紙としての使命を再確認して、大学生が自ら本を選びそれを周囲に伝えるという運動に力を注ぎたいと考えました。毎週、一人の現役大学生に自分で選んだ「本」について書評を書いてもらい、本紙に掲載し、さらに新たにスタートした「週刊読書人ウェブ」でも紹介いたします。全国の多くの大学生がこの記事に接して、自分も読んでみようという気持ちになって欲しいと願い、また一方で、多くの経験を積んできた社会人の方々が、いまどきの大学生の読書への感性を理解する場になってくれることも期待しています。


高校生たちと、その周辺にいる大人たちに向けて発信している弊社のウェブサイトについて私の話を聞いてくださって、アドバイスをくださった。


────「本を読まない」若い人へのアプローチにはどんな方法があると思われますか?

学生の目線で考えると────年をとった社会人として見るんではなくてね、学生だった自分の目線を思い出して考えると、自分が知らないようなジャンルのことを書いたり読んだりして表現している人を横目に見て、悔しいなぁっていうの、あるじゃないですか。そういうことに刺激を受けて、本を読んでみる。それは人間として本能的にあるものだと思うんですね。

読書は強制すればするほど嫌になっちゃう。読書感想文が本を嫌いにする最大の原因だっていうでしょう。読書というのは、ひっそりとして、自分の内面を人にはさらさないけれど、実は内面を磨いているんだぞという、秘密めいたところがあったほうがいいじゃないですか。

人が読んだ本を気にしていて、横目でね、そうやって読んでいく。だからあんまり読め読めって言わないほうがいいかなと思っているんですけどね。


────お読みになる本はどうやってお探しになりますか?

ぼくは出版社の人間で、同い年はもうみんなOBですけど、たとえば数日前のことですが新潮社の鈴木くんという人が、「黒木さんあの本よかったよ」って電話で教えてくれましてね。それが平野啓一郎の『ある男』、乙川優三郎の『25年後の読書』。このうち平野啓一郎の方は、これまでの作品はぼくはあんまり……だったんだけれど、この作品はしみじみと良かった。そうやって勧められて読むことも多いです。

書評の仕事をしていながら、身近にいる人がこの本読んだらいいよっていうのが大きいかもしれない。福村出版の代表の福村さんからもときどき電話をもらって、『アメリカンスナイパー』って面白かったよって。ここ便利だから三省堂書店行ってね、読んだりしてるんですけど。一番手っ取り早くて、次にその人と会う時に話題になるからね。かならずしも書評からっていうものでもないんだね。


────弊社の読書案内では、大人たちが自分にとっての「かけがえのない一冊」を紹介して、その本そのものを読んでほしいというよりも、「じゃあ自分もそんな一冊を探そう・持とう」という風に思ってくれたらと考えています。そういう感覚がどのくらいの高校生にあるのかなと迷うことがあります。

そう思う高校生はいると思いますよ。でも、絶対多数を求めちゃだめなんですよね。1000分の1、1万分の1、数としては儚い数字だけれど、そこを目指していく。そうでないと本に対する思いを伝えるのは難しい。こんなことをやるのは無駄って思わないで、こつこつやることが大事だと思ってね、期待をしないで続けています。

でも、広げていきたいですよね。やっぱりぼくは、本を読んでいる人がカッコよく見えるっていう演出って大切だと思っていましてね。さっき、お昼に……うちは明日が校了日だから社員の邪魔ができなくて、昼飯に社員を誘えないですから、一人で行ったんですけど、お蕎麦食べてコーヒー飲むと二度手間だなぁと思って、パンとかサンドウィッチ食べられてそのままコーヒー飲めるところがいいなと思って探して入ったんです。カフェみたいなところですね。

20人くらいお客入ってるんだけど、女の子がみんなスマホを見てる。そこにおじさん一人で入って行って、1時間くらい本読んでいるんですよ。時々何人かにひとり、通りすがりに、あれ、ってぼくのことを見る。場違いなおじさんがいるけど、本を読んでいるなって。そういうのってシーンになるんじゃないかなと、そういうのを演出すると、ぼくの利害とも一致するし(笑)。お昼食べられてコーヒー飲めて本が読める。

あんなおじさんもいいよねって思ってくれる女の子がいたらと思います。自分も読んでみようって思いますし。できるだけ電車の中でも本読むようにしています。

若い人が本を読んでものを考える力、伝える力を育んでほしいと思っています。コツコツやっていくことが、日本という国の底力をきちんと育てる気がするんだけどな。教育が欠けているなと思います。だからこそ本というものを通じてやっていかないと。こういう活動をしていると、影響力の小ささにがっくり来るんだけど諦めちゃだめですね。ひとりずつ、届くように。