愛と同じくらい孤独
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選定者私物の本

案内文02

「人として女として、いかに生きるか。」 ライター・佐々木彩子

『愛と同じくらい孤独』フランソワーズ・サガン/朝吹由起子 訳

やれやれ。世間は若いお嬢さんの恋愛事情、さらにハッキリと言うなら性的な事情に、いつでも興味しんしんです。うんざりです。

自分自身がその喧噪から離れ、どさくさ紛れで子供も生んで、その子がそろそろ騒ぎに巻き込まれる年頃になろうかという今になってみれば、少しはわかるのです。

若い女性がどんな相手とどういう経緯で結ばれるか、どのように子供を生み育てていくかは、多くの人が無関心でいられない重大事。未来そのものです。だから大上段にかまえた結婚論から悪寒のするような下世話なゴシップまで、この騒ぎは人が生きていく限り、止むことはないのではないか、と。

でも自分がお嬢ちゃんだった頃、そんなことはわかりもしませんでした。「私のことでしょ? 放っといて」としか思わなかった。自分が巨大な時の流れのなかの砂粒のひとつに過ぎないなんて、若い頃にはなかなか思いつかないものです。


前置きが長くなりました。フランソワーズ・サガンのインタビュー集『愛と同じくらい孤独』は、若くしてそんな世間の好奇心のド真ん中に突っ込んで、もみくちゃになりながらも壮絶に生き抜いた、ある美しい作家の20年の記録です。

サガンの『悲しみよ、こんにちは』という小説はご存知でしょうか。1954年に出版されたこの188ページの処女作で、18才の彼女のもとには、巨万の富とともに世間様の目と声とがとんでもない程に集まりました。


質問者 何歳のときに快楽を発見しましたか?
サガン どういう快楽ですか?
質問者 ばかげた質問、いわゆる《商業的な》質問でしたが、お上手な答え方でしたね。

実に失礼極まりないインタビュー、今なら完全にアウトですが、そんな時代だったのですね。「(あなたの処女作は)スキャンダル的なところが受けた、という人もありました」という質問に対して、サガンは「複雑な恋愛関係を背景に、一人の女の子が男の子と肉体関係を結ぶごく簡単な物語ですが、その女の子は道徳上の悩みを持たないわけです」(そこがスキャンダラスととられたのでは?)と、あっさり振り返ります。


どの学校にもなじめなくて何度も放校処分を経験、大学入学資格試験をギリギリでクリアしたばかりの半落ちこぼれお嬢さんが、あれよあれよという間にスターダムに。仲間との、どんちゃん騒ぎ。自動車事故。

あまりにもチャーミングで激しくて、若い頃はわくわくしながら読んだものですが、今改めて読み返してみると、そんなものは、この本の前段に過ぎませんでした。

作家サガンは一貫して真摯に率直に、自分の人生と仕事を語っています。

人として女として、いかに生きるか。どう仕事をしてゆくか。

あらすじ/『愛と同じくらい孤独』フランソワーズ・サガン

18歳で小説『悲しみよこんにちは』を発表して「フランス文壇の寵児」と呼ばれた作家フランソワーズ・サガンのインタビュー集。少女時代の環境、デビュー後の周囲の変化、仕事に対する流儀−−−など話題は多岐にわたり、インタビュアーの質問とサガンの応答の集合体によってサガンという作家を掘り下げる一冊。なお、サガンが新聞や雑誌で答えた内容をまとめた本は2回にわたって出版されており、これは『悲しみよこんにちは』が発売された1954年から1974年頃に行われたインタビューを集めたもので、後期のインタビューは『愛という名の孤独』としてまとめられている。

案内者プロフィール

佐々木彩子。1973年、東京生まれ。20代にコピーライターと専門紙編集を経験。その後は小中学校教科書の編集手伝いなどを細々と。文芸同人誌『有象無象』に雑文を寄稿。子供は15歳・11歳の姉妹。好きな食べ物はすいか。

愛と同じくらい孤独

書籍情報

『愛と同じくらい孤独』(1976年1月)新潮社より発刊、1979年5月に文庫化。2018年現在絶版。古書店・Amazonマーケットプレイスなどで購入可能。
原書『REPONSES』(1974年6月初版発行)は現在も発売中。