愛と同じくらい孤独
愛と同じくらい孤独
愛と同じくらい孤独
選定者私物の本

案内文01

「わたしにとっての、特別な本」 ライター・小窪瑞穂

選定者

『愛と同じくらい孤独』フランソワーズ・サガン/朝吹由起子 訳

わたしはとりわけ本と映画と音楽が好きなのだけれど、どの作品を味わっても、結局のところ、自分はそれらを作った“ひと”に興味があって、あらゆる芸術に携わるひと、表現するひとが好きなのだと思う。好きなひとの好きなものも追いかける。すると、だいたいその先にある新しい作品たち、作家たちも、やっぱり好きなのである。サガンも好きな作家の好きな作家だった。好きなミュージシャンやアーティストの愛読書のなかにもサガンの作品があった。今ふり返ると、わたしの人生は、サガンを避けて生きてこられないようになっていた。サガンにも好きな作家が存在するわけで、こうして追いかけ続けることによって、わたしたちの読書体験はより豊かなものになる。


この『愛と同じくらい孤独』は、約二十年分のサガンのインタビューが編集者によって集められ、最後にサガン自身が目を通し、まとめられたものである。サガンの生きざま、思想、人柄などがはっきりわかる、彼女の発言ひとつひとつが、彼女の小説世界よりもわたしを惹きつけた。これを読むと、彼女がどんな思いで、どんな意図で、物語を書き、書き続けてきたか、小説世界を体験しただけではわからないことがたくさん見えてくる。日本語訳を手がけた朝吹登水子(70年代以降の作品の翻訳は娘の朝吹由紀子)の日本語表現もわたしを魅了した。本作は朝吹由紀子訳である。まず、冒頭のインタビュアーの質問に対するサガンの回答が最高である。“そうでしたっけ。忘れていました。” 一問目のこの一言で、やっぱりわたしはサガンが好きだと思ったし、このインタビュー集のすごさをすでに感じとってしまった。


この本はいつしか、私のお守り的存在になった。調子が悪いとき、この本を読むとなんだか落ち着く。いつもの自分に引き戻してくれるのである。愛らしさやユーモアもありながら、ときに鋭く刺激的なサガンの言葉たちが、わたしの芯の部分を活性化するのだろう。だから、この本はいつもわたしの手の届くところにある。


「ものうさと甘さがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。」、1954年に18歳のサガンが書いたデビュー作『悲しみよ こんにちは』の書き出しのような、鮮烈な印象を与える数々の名言が、このインタビュー集のなかにも散りばめられている。それらにはっとするたびに、なんとも豊かで幸せな気持ちになる。サガンの“声”、ともいえるそれらが、こうしていまも世界中のひとびとに響き続け、それぞれの思想や意識や毎日へ、作用し続けている。

あらすじ/『愛と同じくらい孤独』フランソワーズ・サガン

18歳で小説『悲しみよこんにちは』を発表して「フランス文壇の寵児」と呼ばれた作家フランソワーズ・サガンのインタビュー集。少女時代の環境、デビュー後の周囲の変化、仕事に対する流儀−−−など話題は多岐にわたり、インタビュアーの質問とサガンの応答の集合体によってサガンという作家を掘り下げる一冊。なお、サガンが新聞や雑誌で答えた内容をまとめた本は2回にわたって出版されており、これは『悲しみよこんにちは』が発売された1954年から1974年頃に行われたインタビューを集めたもので、後期のインタビューは『愛という名の孤独』としてまとめられている。

案内者プロフィール

小窪瑞穂。1977年生まれ、ライター。2000年より音楽雑誌やウェブを中心に活動、2012年渡豪後はジャンルを限らず執筆、2016年より翻訳もはじめる。好きなことは映画・音楽観賞。最近興味があるのは、Energy MedicineとAstrology。

愛と同じくらい孤独

書籍情報

『愛と同じくらい孤独』(1976年1月)新潮社より発刊、1979年5月に文庫化。2018年現在絶版。古書店・Amazonマーケットプレイスなどで購入可能。
原書『REPONSES』(1974年6月初版発行)は現在も発売中。