サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か
サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か
サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か
選定者私物の本

案内文02

「夢よりも老いを自覚させられて」 編集者/ライター・月岡 誠

『サイエンス・インポッシブル』ミチオ・カク

昔から、レオナルド・ダ・ヴィンチが憧れで、目指していたりもした。やっぱり世界は全部つながっているので、科学もそこそこはわかんないと、という思い込み。だから、苦手な科学もこういう読物で、ちっとはフォローしなきゃ、となる。SFを読んでワクワクするのとは、ちょっと違う。

この本は、SFに登場するスゴ技(フォースとか念力とか)やスゴ設定(パラレル・ワールドとか)について、最先端の研究を紹介しつつ、「できそう」「もしかすれば」「ムリムリ」の3つに分類する。まあはっきり言って、理屈は半分もわかりませんでした。ので、理系で前向きな若い人にしか勧められません、ワタシ的には。根本的に、前提となるマックスウェルの場の方程式とか、時間・空間が縮むとかいう相対性理論、宇宙のはじまりは爆発だというビッグバン理論なんかが、ぜーんぜん腑に落ちてないので無理なんです。

という状況で一番感じたのが、自らの老い。不可視化とかテレポーテーションとかタイムトラベルといった“できたらいいね系”や、「地球外生命とUFO」「反物質と反宇宙」「並行宇宙」あたりの“わかるとすごいね系”なんか、実現するかしないかなんかどーでもいいじゃんと思ってしまう。一方で、何とかしなくちゃに近い「スターシップ」(太陽は何十億年後には燃え尽きるので、他の恒星系に移住するための宇宙船)が「できそう」、「永久機関」「予知能力」が「ムリムリ」というのに妙に安心する。若い人に「人間、額に汗して努力すれば大丈夫」と言えるから――じじぃですね。

加えて、いちばん心に残ったのが、生命が存在するには、太陽があるだけじゃダメで、木星サイズの惑星やそれなりの大きさの月、強い磁場、ほどほどの自転速度、銀河の中心からほどよい距離――などの条件がクリアされないと、というくだり。木星がデカいから弾除けになってくれて、地球に小惑星がバシバシ当たらずに済んでるとか読むと、ホルストのジュピターが鳴り響いて、生きてることに感謝の念が……これまたじじ臭い。

ワクワクすんのは若い女性だけ、じゃエロじじいになっちまうから、Don’t think, feelじゃなく、feelもいいけどthinkもね、ぐらいでいきたいものです、もう少し。

あらすじ/『サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か』
ミチオ・カク 著 斉藤隆央 訳 2008年

「スター・ウォーズ」「透明人間」「A.I.」など古今のSF作品を通して、物理学がこれから実現していけるかもしれないことの可能性を解説した科学書。いまや当たり前のものとなったGPS(衛星測位システム)や携帯電話がかつて想像の世界にしか存在しなかったのなら、科学がタイムトラベルやテレポーテーションなどを実現する日が来るかもしれない。あり得ないとされるテクノロジーが、いつ・どのように実現できるのか、が物理学者によって語られている。

案内者プロフィール

月岡誠。1961年東京生まれ。双子。仙台6年、埼玉22年。妻子アリ。専ら社史のライティング、たまに編集、ごくたまに企画。「愛は破れるが親切は勝つ」けど愛も欲しいやね。パス重視だけど、ちょっとは「拍手が欲しい」。「人は死ねばゴミになる」けど、なかなかそうは悟れん。嗚呼、凡庸也。

サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か

書籍情報

『サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か』(2008年10月発刊)
NHK出版から発売中。