選定者私物の本

案内文01

「mellow out book」木工作家・mellow crafts

選定者

『旅をする木』星野道夫

昔からずっと読み続けている一冊の本がある。忙しい日々が続いたり、ちょっと疲れた時は、この本を開くことにしている。ひとつひとつの深い言葉が落ち着きと立ち止まって考える時間をくれる一冊。

この本は自分にとってそんな不思議な力を持っている。著者が様々な場所で出会った人や風景、そしてそこで感じたことがシンプルにつづられている。大げさな誇張が無い分、その言葉は聡明で深く心に入り込んでくる。

いつか見た風景がその後の自分にどのように勇気を与えるかという「ルース氷河」。どのようにアラスカと出会ったのかという「アラスカとの出合い」。結婚生活の始まりをつづった「アラスカに暮らす」。

現在を取り巻く環境はゆっくりと本と向き合う生活とは年々かけはなれた生活になっていると思う。そして、それを避けることもなかなか難しくもあるのではないか、と感じる。

それでも、何かのきっかけで、この本と出会い、丁寧に言葉と向き合った星野道夫の生涯の仕事ぶり、写真、文章の言葉ひとつひとつに共感し、感動することができたとすれば、それは、人生において人と人とが出会う限りない不思議さに通じている(「アラスカとの出合い」から引用)気がする。

あらすじ/『旅をする木』星野道夫

その生涯をかけてアラスカの大地で自然や動物たちの写真を撮り続けた写真家・星野道夫の随筆集。アラスカで出会った人々との交流、生と死が隣り合わせに存在する日々のことを、静かで美しい文体で綴られている。1996年に不慮の事故で死去したのちも、彼の写真や文章は人々の心に多くを語りかけている。この文庫本が旅人の手から手へと渡り、旅を続けた「軌跡」を描いたドキュメンタリー番組「“旅をする本”の物語」が没後20年を経た年に作られている。

案内者プロフィール

mellow crafts。木工作家。海辺の街に在住。2児の父。趣味である、サーフィンの行き帰りに出会う貝や流木と日々奮闘中。インスタグラムmellow_1024にて作品や心に残った風景をマイペースで更新。

旅をする木

書籍情報

『旅をする木』(1995年文藝春秋より発刊)。
文春文庫から発売中。