案内文01
「ノスタルジィの涙」カフェ店主・宮原朱未
『木を植えた人』ジャン・ジオノ
もう、ほとんどの人々が語ることのできない第一次、第二次世界大戦を背景に、計り知れないやさしさと静けさを称えた(慈愛ですね、もはや)エルゼアールおじさん。おじさんは、奥さんと息子さんを亡くし南仏プロヴァンスの山中で暮らしていたらしく、何をしていたかというと、羊飼いをしながら荒野にブナやナラの樹を植え続けて、大自然を復活させたって…お一人で。まぁ、傍らにいる牧羊犬にも支えられていたのだろうと思うけれど。それにしても、単位がね。せいぜい何百という苗の数かな? と思うでしょ? 一人でコツコツとやってるし。…10万というドングリの実を植えて、そこから2万本の芽を出させたということです!
現代社会では、とうていできないし…
なにかちがう境地にいないとむつかしいことですね。
生涯をプロヴァンスのマノスクという地で、木が虫にやられようが森林伐採の憂き目に合おうが(昔は燃料としても重要でしたから)、淡々と同じように植え続けたエルゼアールおじさん。
“ひたすら無私に与えつづける寛い心”
“この人がくじけたり、疑いを抱いたのを見たこともない”
この言葉を読んだときに、ブルゴーニュやローヌアルプに居たときの、大きな自然の流れとゆったりとした歩みが一体となり日常に静かな緑のほほえみを感じ、あまりにも優しすぎるから、在るだけで優しすぎるから、涙がでちゃった記憶、すべてが赦されあたたかく包み込まれる、鼻のおくがツーンとしながらなぜか懐かしさがこみ上げてくる。そんな記憶がフワッと身にあらわれてくるのです。
さまざまな都会にいると、欠けていること必要なことは大自然に足を向けると教えてくれるから…そんな草臥れた心が癒される。
何かを真摯な気持ちで続けていくこと、インターネットの情報にとらわれず、人が本来の人間らしくいられることって、いつも考えさせられるのだけれど、すこし迷ったらこのおじさんの暮らしの一部を思い出すといいかもしれない。
そこには変わることのない本当のやさしさと美しさ、静けさと強さがいてくれるから。
あらすじ/『木を植えた人』ジャン・ジオノ著(1953年発表)
旅の途中の「私」は、フランスのプロヴァンズ地方で、人知れず植樹を続ける寡黙な羊飼いと出会う。彼はたくさんのどんぐりから形のきれいなものを選り分け、それをかつて森だった場所にひとつずつ植えていく。2つの大きな戦争にも惑わされず淡々と植樹を続ける。10年後に「私」が彼のもとを訪れた時、木々は大人と肩の高さくらいまでに成長していた。いくつもの訳で出版され、短編アニメーション作品『木を植えた男』は、1987年にアカデミー短編アニメ賞ほか複数の賞を受賞している。
案内者プロフィール
宮原朱未。1979年鹿児島県生まれ。経営者。東京都世田谷区カフェ デ ソレイユ店主。学生時代、ホルン演奏を専門としクラシック音楽の教育を受け、96年にオーストリア ウィーン、フランスはパリにて音楽研修と聴講生の経験を機にヨーロッパ文化への関心を抱くようになる。2015年フランス リヨンや地方の村へ通っていたことがきっかけで、現在は南仏の家庭的風景を追いかけ自身のカフェに反映させるよう研究の日々をおくっている。
書籍情報
『木を植えた人』(原みち子訳)現在、こぐま社から発売中。
案内者が勧める原みち子さん訳のもののほかに、あすなろセレクション『木を植えた男』(あすなろ書房)、大型本『木を植えた男』(あすなろ書房)などさまざまなかたちで出版されている。