選定者私物の本

案内文01

「わからない、だからおもしろい。」グラフィックデザイナー・西中 賢

選定者

『路上と観察をめぐる表現史 考現学の「現在」』広島市現代美術館監修

この本は2013年に広島市現代美術館で開催された「路上と観察をめぐる表現史─考現学以後」展の公式書籍です。読み進めていくと知らない学問のことや難しい言葉がたくさん出てきます。読み終わったあとも何の本だろうと疑問に思うかもしれません。

この本に出てくる「考現学」は、関東大震災(1923年)の直後、それまで柳田國男らと民俗学の調査・研究をしていた今和次郎という人物が、東京の街や人々の風俗、つまりその時代の「いま」をスケッチやメモで記す活動から生まれた新しい学問でした。「考古学」に対しての造語である「考現学」。まさに自分の目の前にある事物を見えるがままに書き記した時代の記録です。

その後、1980年代には路上観察という活動をとおして、アーティストやデザイナー、建築家などにより、風俗に限らずさまざまな街の姿を採集していく活動が広がりました。昇った先には何もない階段、思わずクスッと笑ってしまうような看板文字、突如現れる奇妙なオブジェなど。その多くは、無用のもの、目的がわからないもの、どうしてそこにあるのかわからないものなど、合理的とは真逆に感じるものばかりです。でもそこにはユーモアだったり、皮肉だったり、見つけた人の心を揺り動かすかのようなメッセージを発しています。

本当は皆が見ていたはずなのに、見過ごされていた風景がまだまだたくさんあるはずです。ゆっくりとした歩みで、じっと街を観察していけば、誰もが見つけることができる風景。せっかく街を歩くのだったら、スマートフォンから街に目を向けてみてはいかがでしょうか。

あらすじ/『路上と観察をめぐる表現史 「考現学」の現在』

観察者が路上で発見した創作物を紹介し、観察や発見が「表現」に昇華する様子を検証した展覧会(広島市現代美術館で開催)の公式書籍として発刊されたもの。出品作家による作品図版・資料の他、都市論、建築学、表象文化論、美術批評などさまざまなフィールドの論考やコラムを収録することで、路上と観察をめぐる研究の軌跡を多角的に考察している。

案内者プロフィール

西中賢。1970年、大阪府生まれ。グラフィックデザイナー、大学教授。展覧会のグラフィックを中心にカタログや書籍のデザインを生業としている。近年ではアートプログラムなどの記録を主たるテーマとし、ドキュメントブックの企画や編集にも携わる。

路上と観察をめぐる表現史 考現学の「現在」

書籍情報

『路上と観察をめぐる表現史 考現学の「現在」』
2013年1月にフィルムアート社より発刊。2018年現在絶版。
古書店、Amazonマーケットプレイスなどで購入可能。